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 ザステイツヨコハマ207号

特許権侵害 -侵害論1 - 2  3    5 6 7     PATENT INFIRNGEMENT

特許権侵害


特許権侵害とは

特許権侵害とは、、特許権者等でない者(即ち正当の権限や権能を有しない者)が他人の特許発明を業として実施することをいいます。
(1) この定義は、特許法68条の解釈から導出されます。
 □正当な権限や権能を有する者とは、特許権者、専用実施権者、通
   常実施権者、特許法69条が適用される者、先用権者等です。
  □特許発明とは、特許を受けている発明であり(特許法2条2項)、
   具体的には、特許請求の範囲に記載されている発明です(特許法36
   条5項)。
  □実施とは、特許発明に関する製品や方法の製造、販売、使用等、
   特許法2条3項に規定された行為です。
  □業としてとは、事業としての意味であります。したがって、個人的
   家庭的な実施は侵害となりません。
(2) 特許権侵害の具体的態様として、文言侵害、均等論適用による侵害が
   あります。その他、予備的行為による侵害態様として、間接侵害があ
   ります
(3) 特許権侵害者に対し、民事上(差し止め請求(特100条)、損害賠償
   請求(民法709条)、不当利得返還請求(民法723条)等)及び刑事
   上(侵害罪(特196条))の訴追が可能です。
特許請求の範囲の記載
特許出願の際には、特許法36条、施行規則、審査基準を踏まえて、特許請求の範囲を記載する必要があります。
(1) 特許性の点から特に気をつけること
  □特許請求の範囲の記載要件(特36条)
  サポート要件(同6項1号)、明確性の要件(同6項2号)、
  実施可能要件(同4項1号)
  □出願の単一性(特37条:特別な技術的特徴(STF)の明確化)
  □発明の新規性(特29条1項:先行技術調査厳守)
  □シフト補正の禁止(特17条の2第4項)
  □その他発明の進歩性(特29条2項)等
(2) 権利範囲の点から特に気をつけること  
  特許後の権利範囲を広くするために、特許請求の範囲の請求項1を極端
  に広く記載し、「拒絶理由通知がきたら、適当な範囲に補正すればい
  い」という考えは、現行法では、リスクを伴います。
  このような広い請求項1は、公知技術を含む可能性が非常に高く、発明
  の新規性(特29条1項)を欠く可能性があります。この結果、特別な
  技術的特徴(STF)の欠如から、出願の単一性(特37条)を欠くこ
  ととなり、大部分の請求項が審査されない状態になります。しかも、
  シフト補正禁止の規定(特17条の2第4項)により、補正も著しく制
  限されます。
  したがって、多数の請求項(特に多数の独立項)を含む出願を行っても
  、審査・特許されるのは、ほんの数個の請求項に限定されてしまうおそ
  れもあります。チャレンジクレームは、このような事情を踏まえて作成
  する必要があります。
記載例
特許請求の範囲の記載方法としては、例えば、以下の型あります。
(1) Comprising型 :
・供給された用紙を巻き付けて回転するプラテンドラムと、
・このプラテンドラムに巻き付けられた用紙に印字を行う印字ヘッドと、
・この印字ヘッドで印字され上記プラテンドラムから送り出された用紙を
 挟んで回転することにより、当該用紙を排紙トレイに送り込む一対のロー
 ラと
 を具備することを特徴とするプリンタ
(2) Jepson型(=Preamble+Characterizing):
 ・供給された用紙をプラテンドラムに巻き付けて回転させ、このプラテン
  ドラムに巻き付けられた用紙に印字ヘッドで印字するプリンタにおいて
 ・上記印字ヘッドで印字され上記プラテンドラムから送り出された用紙を
  挟んで回転することにより、当該用紙を排紙トレイに送り込む一対のロ
  ーラを設けた、
  ことを特徴とするプリンタ
(3) 書き流し型:
 ・供給された用紙をプラテンドラムに巻き付けて回転させ、このプラテン
  ドラムに巻き付けられた用紙に印字ヘッドで印字を行い、この印字ヘッ
  ドで印字され上記プラテンドラムから送り出された用紙を回転する一対
 のローラで挟んで排紙トレイに送り込むことを特徴とするプリンタ
(4) その他:〜であって型, Markush claims型等、諸々の型があります。

*要素対比によって侵害の判断を行うことを考慮すると、Comprising型が
 良いといわれていますが、実際は、ケースバイケースです。

問題となる特許請求の範囲(クレーム)

機能的クレーム
機能的クレームとは、発明が、機能や作用効果を表す用語で表現されているクレーム(特許請求の範囲)をいいます。
□平成6年の特許法改正により、特許請求の範囲の記載方法が「発明の構成
 に欠くことができない事項のみ」から「発明が明確であること」に緩和さ
 れ、明確であることを条件に機能的・作用的な表現が許されるようになり
 ました。この結果、機能的クレームが機能的・作用的であることだけを理
 由に無効にされる可能性は減少しました。
 しかし、クレームが機能的・作用的に表現されていることにより、その発
 明が明細書中に実施可能に開示していない場合には、36条4項違反の無
 効理由が存在することになります。
 また、無効にならないまでも、特許請求の範囲の一部に機能的・作用的表
 現が存在すると、技術的範囲が著しく限定されることになります。
□技術的範囲の判断は、次ページの「文言侵害」の4つの基準に基づいて行
 われます。例えば、構成要件の1つが機能的・作用的に表現されている場
 合には、この表現部分の「用語の意義」を明細書全体から解釈します。し
 たがって、発明の詳細な説明の記載のいかんによって、上記構成要件が、
 実施例レベルの部材等に限定されたり、解決手段レベルまで広がった各種
 の部材等に適用されたりします。
□関連判例:
 @地震時ロック方法事件(東京地裁H18判決-H17(ワ)22834
 Aアイスクリーム充填苺事件(東京地裁H16判決-H15(ワ)19733
 Bコンクリート型枠保持方法事件(東京地裁H18判決-H17(ワ)8673
 Cレンジ事件(大阪地裁H21判決-H19(ワ)16025
 D盗難防止用連結具事件(知財高裁H25判決-H24(ネ)10094
プロダクト・バイ
・プロセス・クレーム
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)とは、物の発明を製造方法的に表現したクレームをいいます。
□平成27年最高裁判決
 PBP・クレームは、物の発明を製造方法的に表現したクレームであるの
 で、請求の範囲の明確性要件に欠け、その技術的範囲の判断も、疑義が生
 じがちです。
 そこで、平成27年のプラバスタチタンナトリウム事件の最高裁判決にお
 いて、直接的に構造や特性によって物を特定することが、出願時に不可能
 又は実際的でない事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するために、
 やむなく製造方法的表現で記載したPBP・クレームに関しては、例外的
 に、明確性の要件を満たし且つPBP・クレームにおける技術的範囲の判
 断に物同一説を用いる、旨判示しました。
 *「物同一説」とは、技術的範囲は、特許請求の範囲に記載された製造方
  法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物の全て
  の物に及ぶとする説です。
 *この最高裁判決により、不真正PBPクレームとして製法限定説による
  が,不可能・困難事情が存在する真正PBPクレームの場合に限り,
  物同一説によるという、原審「プラバスチタンナトリウム事件(知財高
  裁H24判決-H22(ネ)10043)」の二分論は否定されました。
□審査及び審判における明確性の判断
  上記最高裁判決の判示内容に沿っった取り扱いが成されます。
  つまり、PBPクレームであろうと、その他のクレームであろうと、
  明確性の要件は厳格に要求されます。
  但し、「不可能・非実際的事情」があるPBPクレームについては、
  例外的に、明確性の要件を満たしているものとして取り扱う、というこ
  とです。
□当面の審査の取扱い
 ○ 物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、
  審査官が「不可能・非実際的事情」があると判断できるときを除き、
  当該物の発明は不明確であると判断し、拒絶理由を通知します。
 ○ 出願人は、当該拒絶理由を解消するために、反論以外に、以下の対応
  をとることができます。
  ア.該当する請求項の削除
  イ.該当する請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正
  ウ.該当する請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする
    補正
  エ.「不可能・非実際的事情」についての意見書等による主張・立証
 ○ 出願人のこの主張・立証の内容に、 合理的な疑問がない限り、
   審査官は、「不可能・非実 際的事情」が存 在するものと判断します。
□当面の審判の取扱い
  ○ 拒絶査定不服審判において、物の発明に係る請求項にその物の製造
    方法が記載されている場合は、「不可能・非実際的事情」があると
    合議体が審判請求人に聞くまでもなく判断できるときを除き、拒絶
    理由を通知します。審判請求人は上記「当面の審査の取扱い」と同
    様に、補正や、意見書等における「不可能・非実際的事情」の主張
   ・立証等の対応をとることができます。
  ○ 無効審判における訂正請求や訂正審判での、訂正可能範囲には要注
    意です。
□関連判例:
  @プラバスチタンナトリウム事件
    (最高裁H27判決-H24年(受)第1204, 同2658)
  Aプラバスチタンナトリウム事件
    (知財高裁H24判決-H22(ネ)10043、同H23(ネ)10057
数値限定クレーム
数値限定クレームとは、発明特有の技術的特徴が数値限定範囲内に存在するとしたクレームをいいます。
□数値限定範囲に関しては、均等論等の拡大解釈の余地は殆どなく、
 数値範囲の通りに技術的範囲が定められます。
 つまり、数値限定クレームの技術的範囲の判断は、次頁の「文言侵害」の
 4つの基準に基づいて厳格に行われます。
□関連判例:
 @ビニル重合体事件(東京高裁S59判決-S54(ネ)2813
 A感熱転写シート事件(東京地裁H13判決-H11(ワ)17601
 Bマルチトール含蜜結晶事件(東京高裁H16判決-H15(ネ)3746
 Cブラニュート顆粒事件(東京地裁H17判決-H15(ワ)19324
 D可変漸進集束力を有する光学レンズ事件
            (東京高裁H4判決-S62(ネ)1010
 E複合フィルム事件(東京高裁H17判決-H15(行ケ)275
 F偏光フィルム事件判決(知財高裁H17判決-H17(行ケ)10042
 G超高分子量ポリオレフィン事件(東京高裁H16判決-H15(ネ)4920
□均等論不適用の理由:
 数値限定クレーム記載の発明は、数値限定範囲において従来技術より優れ
 た特有の効果を奏するが故に特許されたのであるから、数値範囲が発明の
 本質的部分(均等要件1の不適用)となるからです。
 また、数値限定以外の範囲は意識的に除外されたものとされるから、
 技術的範囲が限定範囲を越えて広がることはありません(均等要件5の不
 適用)。
 *関連判例:
  @酸素発生陽極事件(大阪地裁H16判決-H14(ワ)10511
  A腹部揺動器具事件(大阪地裁H13判決-H12(ワ)11470

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