本文へスキップ

TEL. 045-959-0950

〒241-0032 神奈川県横浜市旭区今宿東町1477-1

 ザステイツヨコハマ207号

特許権侵害 - 侵害論5 -   2  3  4 5 6 7    PATENT INFIRNGEMENT

被告(又は被警告者)の主張

はじめに

提訴前の調査
特許権者からは、特許侵害の警告を受けたり、訴訟を提起された場合には、被警告者や被告は、特許侵害の事実を積極的に否認したり、抗弁したりすることができます。

積極的否認とは、特許権者が主張する特許権侵害の事実(請求原因事実)の存在が認められないとする主張をいいます。
例えば、自己の実施行為が、文言侵害における積極的基準や消極的基準に照らし、直接侵害を構成しない、均等論の5要件に照らし、均等物侵害を構成しない、又は101条各号の要件に照らし、間接侵害を構成していないという事実を主張立証します。
抗弁とは、特許権者が主張する特許権侵害の事実(請求原因事実)の存在を前提として、この事実から生じる法的効果を発生させない事実が存在するという主張をいいます。
例えば、抗弁として、次のような事実の存在を主張立証します。
特許権の移動、消滅
 (1)特許権の譲渡、共有
 (2)権利消滅=存続期間満了、年金不納、放棄、相続人不存在等
各種実施権の存在
 (1)専用実施権、許諾通常実施権
 (2)法定通常実施権(職務発明、先用権、中用権、後用権)
 (3)裁定通常実施権(利用抵触、不実施、公益)
権利の効力が及ばない範囲(69条、175条)
その他
 (1)特許法104条の3
 (2)並行輸入
 (3)特許権の用尽 
以下、抗弁の概要について、順次説明します。
*抗弁すべき事実の存在は、特許登録原簿実用新案登録原簿)を用いて
 確認することができます。

特許権の移動、消滅


権利譲渡、共有

特許権の譲渡後の実施、共有者の実施:
・特許権は、財産権であり、譲渡することができます(特許法98条)
 譲渡後の原権利者は、実施者に対して特許権を行使できません。
・共有特許権の共有者であれば、契約で別段の定をした場合を除き、
 他の共有者の同意を得ないで特許発明の実施をすることができます
 (同73条)。
権利消滅


特許権は、存続期間満了、年金不納、放棄、相続人不存在 無効審
 決確定等によって、事後又は遡及的に消滅します。
 かかる消滅後は、発明を何人も自由に実施することができます。

・特許権は、原則出願日から20年を過ぎると、事後消滅します
 (特許法67条)。
・特許年金を追納期間内に支払わないと、権利は遡及的に消滅します    (同112条)。
・特許権は、放棄により事後消滅します(同97条)。
・特許権の相続人が、存在しない場合には、事後消滅します(同76条)。
・特許権は、特許無効審判の審決が確定すると、原則遡及的に消滅します
 (同125条)。

各種実施権の存在

専用実施権、
許諾通常実施権

(1)専用実施権:
 
□専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、特許発明を独占
  排他的に実施することができます(特許法77条)。
  したがって、特許権の効力は、専用実施権の設定範囲内に及ばず、
  特許権者といえども、専用実施権の設定範囲内で実施すれば、専用実施
  権の侵害となります(同68条但書)。
(2)許諾通常実施権:

 □通常実施権者は、許諾行為で定めた範囲内において、特許発明を実施
  することができます(特許法78条)。
  したがって、特許権の効力は、通常実施権の許諾範囲内に及びません。
法定通常実施権



(1)職務発明による通常実施権:
 □従業者等の職務発明による法定通常実施権を有する使用者等は、特許法
  の規定により定めた範囲内において、特許発明を実施することができま
  す(特許法35条、78条)。
(2)先使用による通常実施権(先用権):

 □先使用による法定通常実施権を有する者は、特許出願の際現に実施又は
  準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、特許発明を実施
  することができます(特許法79条)。
 □動桁炉事件最高裁判決において、本条の制度趣旨が公平説であることが
  明示され、その要件(発明の完成、事業の準備、先使用権の範囲)の解
  釈が明らかにされました。
  *関連判例:
   @動桁炉(ウォーキングビーム加熱炉)事件
             (最高裁S61判決-S61年(オ)454号
    3つの争点:
    ・製品の基本構造を示した見積仕様書及び設計図のみで発明が完成
     したことになるのか。
    ・基本構造を示す設計図面を作成し受注活動したことが「事業の準
     備」に該当するのか。
    ・先使用権の範囲は具体的構造を変更したイ号製品に及ぶのか。
 □最高裁判決後の判決例
   @墜落防止安全帯用尾錠事件(大阪地裁S63判決-S58(ワ)7562号
   A耐火断熱構造体事件(名古屋地裁H1判決-S59(ワ)3813号
   B長提灯袋製造装置事件
     (福岡地裁久留米支部H5判決-S59(ワ)192号、S61(ワ)26号
   C6本ロールカレンダー事件(東京地裁H14判決-H12(ワ)18173号
   Dブラニュート顆粒(分岐鎖アミノ酸医薬用顆粒製剤)事件
               (東京地裁H17判決-H15(ワ)19324号
   Eクレメジン事件(東京地裁H21判決-H19(ワ)3494号
   Fスポット溶接の電極研磨具事件
               (最高裁H10判決-H10(オ)881号
   G面構造材の連結装置事件(千葉地裁H4判決-S63(ワ)1598号
   H芳香族カーボネート類の連続的製造法事件
                 (東京高裁H13判決-H12(ネ)2720号
   Iモンキーレンチ事件(大阪地裁H17判決-H16(ワ)9318号
   J生理活性タンパク質の製造方法事件
                (東京地裁H18判決-H16(ワ)8682号
   K配線用引出棒事件(大阪地裁H7判決-H5(ワ)7332号
   Lアンカーの製造方法事件(大阪地裁H7判決-H3(ワ)585号
   M掴み機(油圧式フォーク)事件
                 (大阪地裁H11判決-H10(ワ)520号
   N便座カバー製造装置事件(松山地裁H8判決-H7(ヨ)194号
(3)移転請求登録前の実施による通常実施権:
 
□特許法74条移転登録請求前の実施による法定通常実施権者(移転前の
  原特許権者、その専用実施権者、通常実施権者)は、移転請求登録前に
  その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、
  移転先の特許発明を実施することができます(特許法79条の2)。
(4)無効審判の請求登録前の実施による通常実施権(中用権):
 
□所謂中用権なる法定通常実施権を有する者(無効特許の原特許権者、
  その専用実施権者、通常実施権者)は、 特許無効審判の請求登録前に
  その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、他
  人の同一特許発明を実施することができます(特許法80条)。
(5)意匠権の存続期間満了後の通常実施権:

 □意匠権存続期間満了による法定通常実施権を有する者(原意匠権者、そ
  の専用実施権者、通常実施権者)は、原意匠権の範囲内において、特許
  発明を実施することができます(特許法81条、82条)。
(6)再審により回復した特許権による通常実施権(後用権):
 □所謂後用権なる法定通常実施権を有する者(善意の実施者)は、
  無効審決確定後、再審請求登録前にその実施又は準備をしている発明及
  び事業の目的の範囲内において、特許発明を実施することができます
  (特許法176条)。
裁定通常実施権



(1)利用抵触による通常実施権:
 
□先願特許発明を利用する後願特許発明を実施しようとする後願特許権
  者等は、通常実施権許諾の協議を相手に求めることができますが、協議
  が不成立の場合には、特許庁長官に通常実施権の裁定を求めることがで
  きます。この裁定通常実施権を有する原特許権者等は、裁定で設定した
  範囲内において、特許発明を実施することができます(特許法72条、
  86条、92条)。
 □利用関係:
  利用関係とは、後願特許発明が、先願特許発明の構成をそっくりそのま
  ま含み、後願特許発明を実施すると、先願特許発明を実施することとな
  る関係をいいます。例えば、先願特許発明の構成がA+Bである場合に
  、後願特許発明の構成がA+B+Cのような場合です。
  しかし、化学発明の場合はCを追加することにより、Cが化学反応に関
  与し、その特性が大きく異なるのが通常であります。
  しかしながら、利用関係といえるためには、後願特許発明で構成Cを追
  加したことにより、先願特許発明A+Bをそっくりそのまま含み、その
  一体性が損なわれないことを要しますので、化学発明の場合には利用関
  係は成立しにくいといえます。
  *関連判例:
   @ポリエステル事件(大阪地裁S42判決-S37(ワ)310号
   AビタミンEニコチン酸エステル事件
               (大阪高裁S54判決-S52(ネ)299号
   B無鉛はんだ事件事件  (大阪地裁H20判決-H18(ワ)6162号
   C芯地事件
        (大阪地裁S63判決-S59(ワ)3876号、S60(ワ)1726号
   Dパイプ材事件(大阪地裁H8決-H7年(ワ)3436号
   E発光ダイオード事件T(東京地裁H12判決-H10(ワ)13754号
(2)不実施による通常実施権:

 □不実施の特許発明を実施しようとする者は、通常実施権許諾の協議を相
  手に求めることができますが、協議が不成立の場合には、特許庁長官に
  通常実施権の裁定を求めることができます。この裁定通常実施権を有す
  る者は、裁定で設定した範囲内において、特許発明を実施することがで
  きます(特許法83条、86条)。
(3)公益による通常実施権:
 
□特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許
  発明の実施をしようとする者は、通常実施権許諾の協議を相手に求める
  ことができますが、協議が不成立の場合には、特許庁長官に通常実施権
  の裁定を求めることができます。この裁定通常実施権を有する者は、裁
  定で設定した範囲内において、特許発明を実施することができます
  (特許法86条、93条)。

特許権の効力が及ばない範囲


特許法69条

特許権の効力は、下記の実施、物には及びません。
(1)試験又は研究のためにする特許発明の実施(同1項)
  □試験又は研究のためにする実施の多くは本項の規定がなくとも業とし
   ての実施ではないので、特許権の効力がおよばないが、試験又は研究
   のためにする業としての実施ということもあり得ると考え本規定を
   おきました。
  □後発品メーカーが特許権の消滅後に同じ医薬品(後発医薬品)を販売
   しようとすると、厚生労働省の製造承認を得るために、特許権の存続
   期間満了の2年6ヶ月前から必要な試験を行うための特許製品製造を
   行う必要がありました。
   この行為が本項の「試験」に該当するか否かが薬品業界で大きな問題
   となり、多数の訴訟がなされていました。
   しかし、最高裁判所が、メシル酸カモスタット(膵臓疾患治療剤)事
   件において、後発医薬の製造承認のための行為は本項の「試験」に該
   当すると判断し、この問題が決着しました。
   *関連判例:
    @メシル酸カモスタット(膵臓疾患治療剤)事件
             (最高裁H11判決-H10(受)153号
  □「試験又は研究」として許容される行為は、@特許性調査、A機能調
   査、B改良・発展を目的とする試験の3態様であると考えられます。
   *関連判例:
    @人形頭の製造型事件(東京高裁S59判決-S55(ネ)2956号
    A除草剤事件
   (東京地裁S62判決-S60(ワ)7463号、S60(ワ)6428号、S60(ワ)671号
    Bヒト疾患に対するモデル動物事件
                (東京地裁H13判決-H11(ワ)15238号
(2)単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又は
   これらに使用する機械、器具、装置その他の物
(同2項1号)
(3)特許出願の時から日本国内にある物
(同2項2号)
(4)医師又は歯科医師の処方せんにより医薬を調剤する行為
   及び調剤する医薬
(同3項)

特許法175条



(1)再審で回復した物の発明に係る特許権の効力は、審決確定後再審
  請求の登録前における善意の輸入、日本国内における生産、取得
  した当該物には及ばない
(同1項)。:
 

(2)再審で回復した特許権の効力は、審決確定後再審請求の登録前に
  おける次の行為には及ばない
(同2項)。:
 □当該発明の善意の実施(同1号)
 □物の特許発明において、善意に、その物の生産に用いる物の生産等する
  行為(同2号)
 □物の特許発明において、善意に、その物を譲渡等のために所持する行
  為(同3号)
 □方法の特許発明において、善意に、その方法の使用に用いる物の生産等
  をする行為(同4号)
 □物の生産方法の特許発明において、善意に、その方法により生産した物
  を譲渡等のために所持する行為(同5号)

その他

特許法104条の3
特許権者等の権利行使の制限:
□特許侵害訴訟において、裁判所が、特許が特許無効審判により無効にされ
 ると認めたときは、特許権者等は、相手方にその権利を行使することがで
 きません(同104条の3第1項)。
□上記権利行使の制限は、特許が特許無効審判では無効にされることになる
 旨の抗弁等が侵害訴訟において提出され、その抗弁等の理由があると認め
 られた場合に限られます。したがって、理由が認められないことが明白な
 抗弁を提出する等、濫用的な提出を行った場合には、訴訟審理を不当に遅
 延させることを目的として提出された抗弁等であるとして、却下される可
 能性があります(同条第2項)。
平行輸入



特許製品の並行輸入:
□並行輸入とは、特許権者が本国と日本に同じ特許権を有する場合、特許権
 者が本国で適法に販売した特許製品をを第三者が購入して日本に輸出して
 販売する行為をいいます。
□特許製品の並行輸入は、BBSアルミホイール事件最高裁が黙示の実施許
 諾であるとして特許侵害にならないと判決しました。
 なお、商標における真正商品の並行輸入は、商標の機能を損なわないので
 、商標権侵害とならないとされています。
 *関連判例:
  @BBSアルミホイール事件(最高裁H9判決-H7(オ)1988号
  A中古ゲーム訴訟事件(最高裁H14判決-H13(受)952号
権利用尽



特許権の消耗(用尽、消尽):
□特許権の 消尽(用尽)とは、販売が正当に行われた後は、特許権は用い
 尽くされたものとなり、同一物につき再び特許権を主張することができな
 いことをいいます。
 つまり、特許権者又は適法な製造販売権を有する者が販売した特許製品を
 購入した者が自ら使用し又は転売しても権利侵害となりません。
□適法販売の特許製品を再利用(リサイクル)することは特許権の 消尽に
 あたるか。
 再利用が、再生産であれば権利侵害になり、修理であれば権利消尽により
 権利侵害となりません。
□最高裁は、プリンタ用インクタンク事件において、特許製品の再利用
 (リサイクル)が、発明の本質的部分に係る構成を欠くに至った状態の
 ものについて,これを再び充足させることで、特許製品を新たに製造す
 ると認められる行為である場合には、その行為は再生産であり、修理に
 該当しないので、特許権侵害となると判示しました。
 したがって、発明の非本質的部分を加工・交換する再利用行為は、修理
 であり、特許権の侵害とならないと考えられます。
 *関連判例:
  @プリンタ用インクタンク事件(最高裁H19判決-H18(受)826号
  A液体収納容器事件
        (東京地裁H22判決-H21(ワ)3527号、H21(ワ)3529号
  Bレンズ付きフィルムユニット事件T
               (東京地裁H12判決-H8(ワ)16782号
  Cレンズ付きフィルムユニット事件U
               (東京地裁H19判決-H17(ワ)15327号
  Dフィルム一体型カメラ事件(東京地裁H12決-H11(ヨ)22197号
  Eアシクロビル事件(東京高裁H13判決-H13(ネ)959号
  Fステップ用具事件(大阪地裁H14判決-H12(ワ)7271号
  G製砂機のハンマー事件(大阪地裁H1判決-S60(ワ)6851号

バナースペース

塚原国際特許事務所

〒241-0032
神奈川県横浜市旭区今宿東町 1477-1
ザステイツヨコハマ207号
TEL 045-959-0950



 
JAPANESE
   
ENGLISH