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ザステイツヨコハマ207号
出願手続時に、特許請求の範囲から意識的に除外する等、技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような手続き事項について,特許取得後にこれと反する主張をすることは,民法の信義誠実の原則に反するので、認めることはできない(包袋禁反言;file wrapper estopel)。
従って、イ号が上記積極的基準から技術的範囲に属し、しかも特許に無効理由がない場合であっても、イ号が補正等によって意識的又は外形的にみて除外されている場合には、イ号が特許権を侵害していると主張することは、認められない。
□<類型>
:弁理士高瀬彌平先生の「特許権侵害訴訟判決ガイド」(改訂2013年2月28日)を引用
(1)第三者から見て、外形的に特許請求の範囲から除かれたと解される
行動をしたことを重視する。出願人の主観的意図は参酌しない。
*関連判例:放熱シート事件(大阪地裁H21判決-H18(ワ)11429号)
(2)拒絶理由通知に対し、クレームを補正しないで意見書で相違点を主
張しただけでも包袋禁反言の対象になる。
*関連判例:
@中子成形機事件(大阪地裁S55判決-S53(ワ)952号)
A伸縮脚の固定装置事件(東京地裁H16判決-H14(ワ)28217号)
(3)拒絶理由を回避するために限定した事項や分割出願することにより
削除した事項については、意識的に除外されたものと見なされる。
*関連判例:
@真柱建て込み工法事件(東京地裁H10判決-H8(ワ)1133号)
A燻し瓦の製造法事件(東京高裁H14判決-H12(ネ)5355号)
Bエンドグルカナーゼ酵素事件
(東京地裁H14判決-H12(ワ)26626号)
(4)拒絶理由通知等に対し提出した書類で権利化の決め手になったもの
だけが参酌される。
*関連判例:
@軽量耐火物事件(大阪地裁S62判決-S58(ワ)4025号)
A電動式パイプ曲げ装置事件(大阪地裁H13判決-H10(ワ)12899)
(5)明細書の記載不備の拒絶理由に対する補正も参酌されるか
これについての裁判所の判断は東京と大阪で分かれている。
*関連判例:
@交流電源装置事件(東京地裁H11判決-H9(ワ)22858号)
Aヒト組織プラスミノーゲン活性化因子事件
(大阪高裁H8判決-H6(ネ)3292号)
(6)早期審査に関する事情説明書における陳述も参酌の対象となる。
*関連判例:
@階段構造事件(大阪地裁H15判決-H14(ワ)12752号)
A船舶の動揺軽減装置の制御方法事件
(東京高裁H17判決-H16(ネ)3686号)
(7)勇み足で必要以上の限定をした場合は回復できるか
出願経過における出願人の限定的陳述のとおり解釈しないと新規性
・進歩性がない場合にのみ禁反言を適用し、出願人の陳述が新規性
・進歩性の拒絶理由を回避する為に必要でなかった場合には禁反言
を適用しないという判決が大阪地裁で出ている。
東京地裁でも、引用文献との相違と無関係な出願経過における出願
人の陳述であって、明細書の記載とも矛盾する内容で、技術的範囲
を限定解釈することを否定した判決が出ている。
*関連判例:
@包装体事件(大阪地裁H8判決-H6(ワ)2090号)
A注射方法事件(大阪高裁H13判決-H11(ネ)2198号)
B置棚事件(大阪高裁H19判決-H16(ネ)2563号)
C使い捨ておむつ事件(東京地裁H19判決-H17(ワ)6346号)
(8)原出願の当初明細書・図面に開示されていなかった技術的事項は、
分割出願に係る特許発明の技術的範囲から除かれる。
*関連判例:
@コンクリートセパレータ事件(大阪地裁H4判決-H1(ワ)7601)
A帆立貝事件
(東京地裁H11判決-H10(ワ)8345号、H10(ワ)17998号)
B止め具事件(知財高裁H17判決-H17(ネ)10050号)
(9)分割出願の基になった原出願の審査経緯の参酌
分割出願のクレームと原出願のクレームが共通の構成要件を持つ場
合、その構成要件の解釈に際して、基になった原出願の審査経緯を
参酌することもある。
*関連判例:
@撰別機事件(最高裁H10判決-H9年(オ)2141号)
Aテレホンカード事件(東京地裁H12判決-H11(ワ)24280号)
Bサーマルヘッド事件(京都地裁H11判決-H8(ワ)1597号)
Cゴーグル事件(大阪地裁H19判決-H17(ワ)12207号)
(10)変更出願の際の出願経過も参酌される。
*関連判例:
@磁気テープ等用リール事件(東京地裁S61判決-S56(ワ)14273)
(11)並行して審理中の特許無効審判における特許権者の陳述の参酌
特許無効審判の経過の参酌は、通常は特許権者の主張が受け入れら
れて請求が退けられた場合に参酌するのであるが、侵害訴訟と並行
して審理中の特許無効審判における特許権者の主張を参酌して限定
解釈した判決が出ている。
*関連判例:
@連続壁体の造成方法事件(東京地裁H12判決-H10(ワ)25701)
A誤り訂正実行/検出手段事件
(大阪地裁H14判決-H12(ワ)8883号)
(12)訂正審判(訂正請求)の経緯の参酌
訂正審判(訂正請求)は、特許無効審判への対抗手段としてなされ
ることが多いが、その過程でなされた訂正や意見は包袋禁反言の対
象となる。
*関連判例:
@筆記具のインキ筒事件(大阪地裁H13判決-H6(ワ)7116号)
(13)新規事項または要旨変更とされた事項は技術的範囲に含まれない
出願当初明細書に記載していない技術的事項を特許請求の範囲に追
加する補正が要旨変更又は新規事項の追加とされた場合、最終的に
成立した特許発明の技術的範囲は要旨変更又は新規事項とされた事
項を含まないように解釈される。
*関連判例:
@通信端末装置事件(大阪地裁H24判決-H23(ワ)10712号)
A摩擦防止用内張り板事件(大阪地裁S60判決-S57(ワ)7841号)
(14)包袋禁反言は自発補正に対し適用されるか
自発補正について争った裁判例は日本では見当たらないが、「たと
え自発的に行った補正であってとしても、外形的に特許請求の範囲
を限定した以上、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、
やはり禁反言の法理に照らして許されない」と判示した判決がある
。米国のフェスト事件最高裁判決は、特許性に影響する補正は包袋
禁反言の対象になると判示し、自発補正も対象となることを明らか
にしている。
*関連判例:
@発泡樹脂成型品事件(東京地裁H22判決-H20(ワ)18566号)